サルはなぜ湯冷めしない? 「温泉に入るサル」で有名な地獄谷野猿公苑に聞く
温泉を楽しむのは人間だけではなく、長野県では温泉に入るサルの姿が見られます。しかし、サルは湯冷めしないのでしょうか。地獄谷野猿公苑に聞きました。

冬はお風呂でゆっくり温まりたい、温泉ならなおうれしい、と思う人は多いと思いますが、温泉を楽しむのは人間だけではありません。長野県の自然の中で、四季折々のサルたちの姿が見られる「地獄谷野猿公苑(じごくだにやえんこうえん)」(長野県山ノ内町)は、冬場、雪景色の中で温泉につかるサルたちの姿が、世界的にも有名となっています。
ただ、気になるのは、温泉で温まったサルの「その後」です。サルたちが、湯上がりにタオルで体を拭くとは思えません。人間ならすぐに湯冷めしてしまいそうですが、サルは湯冷めしないのでしょうか。サルが温泉に入るようになった経緯なども含め、地獄谷野猿公苑の担当者に聞きました。
汗腺少なく体毛「密」で湯冷めせず
Q.最初に、地獄谷野猿公苑の開設経緯を教えてください。
担当者「初代苑長の原荘悟(はら・そうご)氏は、元々長野電鉄の社員(公苑の最寄り駅である湯田中駅勤務)で、上林(かんばやし)温泉から地獄谷渓谷、志賀高原一帯の山歩きを趣味としていました。1957年、山歩きの中で100匹を超す野生のニホンザルの群れに遭遇し、その姿に魅せられ、『このサルを、より多くの人に見てもらいたい』と思うようになったといいます。
一方、1952年ごろから、志賀高原一帯ではスキー場開発が急激に進み、生息地を追われた野生のサルが麓の果樹園に現れ、農作物被害を起こすケースが出始めていました。このことから、初代苑長は、野生のサルたちの観光資源としての活用と、農作物被害を未然に防ぐことの両立を図り、『野生のサルと人間の共存』を目指して、地獄谷温泉で餌付けを始めます。地獄谷温泉が、当時餌付けを行ったサルの群れの行動範囲内に位置していたためです。
さまざまな工夫と周囲の協力により、無事餌付けを成功させ、『自然保護および観光資源の活用』を目的として、1964年に『地獄谷野猿公苑』が開苑しました」
Q.サルが温泉に入るようになった経緯を教えてください。
担当者「地獄谷野猿公苑のすぐ近くに、地獄谷温泉の一軒宿『後楽館』があります。1964年ごろの冬、その露天風呂に手を入れて遊んでいた子ザルが、温泉の温かさに気付き、少しずつ身を沈めていき、そのことが少しずつ、子ザルから大人のサルたちへ伝わっていったと言われています」
Q.サル専用の露天風呂を造ったのは、いつごろですか。
担当者「野猿公苑内にサル専用の露天風呂が完成したのは、1967年です。近くを流れる横湯川上流部から、温泉を引いています。なぜ『サル専用の温泉』を造ったかというと、そもそも、後楽館の露天風呂はヒトが入るための温泉であり、サルとヒトが同じ湯船というのは衛生的によくないことと、ヒトとサルの距離が近くなって起こるトラブルを未然に防ぐためです。そうした理由と経緯から、公苑内にサル専用の温泉が造られました」
Q.サルが温泉に入る時期は、大体いつごろから、いつごろまででしょうか。それ以外の時期は、温泉はあるものの、サルたちは入らない、という状況なのでしょうか。
担当者「温泉に入るのは、大体12月下旬~2月ごろまでです。といいますのも、サルたちが温泉に入るのは、冬の寒さをしのぐためですので、温泉で暖をとる必要がなければ、入りません。
さらに、サルは元々、ぬれることを好まないため、冬の時期であっても、お天気がよければ日光浴で暖をとることを優先します。冬の時期の、天気の悪いとき、サルが必要だと感じたら、温泉を利用しているのです。
冬以外の季節は、『温泉で温まる必要がない』ため、基本的には温泉に入りません。ただし、サルが必要だと感じれば、冬以外の時期でも入ることもあります。夏の時期には温泉の温度を少し下げていますので、遊び盛りの子ザルたちがプール感覚で利用している姿を見ることもあります」
Q.サルが湯冷めしない理由を教えてください。
担当者「ヒトは、皮膚の汗腺から汗を出し、その気化熱で体温を調整しています。湯上がりに必要以上に熱を放出してしまうと、体温が急激に下がり、『湯冷め』をしてしまいます。しかし、サルたちは全身を毛で覆われているため、汗腺が人よりも少なく、主に毛の生えていない手のひら等にしかありません。汗をあまりかかないため、急激な温度変化が起こりくく、湯冷めをしないと言われています。
また、サルの体毛は非常に密に生えており、湯につかった程度では、皮膚まで完全にぬれてしまうことはあまりありません。そのため、お湯から出た後に体をブルブルと振るわせれば、大まかな水分は、はじき飛ばすことができます」
Q.入浴するのはすべてのサルなのでしょうか。
担当者「現在、当苑でご覧いただけるサルは約160匹ほどのひと群れですが、群れのサルすべてが温泉に入るわけではありません。まず、オスは基本的に温泉には入らず、温泉に入るのは主にメスとその子どもたちです。オスが温泉に入らない理由は、『何かあったときに、すぐに動けるように』『毛がぬれると体が小さく見えてしまうから』など諸説ありますが、オスの中でも温泉によく入るサルもいますので、それぞれのサルの個性でもあるのかなと思います。
また、メスと子どもといっても、お母さんが温泉嫌いだと、その子も温泉には入らない傾向があります。子どもの頃に、お母さんに連れられて温泉に入る経験があると、大人になっても温泉に入るようになります」
Q.冬季、地獄谷野猿公苑で温泉に入るサルを見るためのアクセス方法や時間帯を教えてください。
担当者「自家用車でお越しの場合は、『上林ホテル仙寿閣』さまを目印に(すぐ近くに公苑用の駐車場があります)、公共交通機関をご利用の場合は、長野電鉄の湯田中駅、または長電バスの『スノーモンキーパークバス停』を目指してください。
どちらの場合も、駐車場やバス停から約2キロ、30分ほどの雪道を歩いていただく必要があります。この約2キロの道は、未舗装ではありますが、ほぼ平らな遊歩道となっており、冬季は除雪されます。ただし、圧雪状態となり、大変滑りやすくなります。スノーブーツや冬用の靴、必要でしたら簡易スパイクをご準備いただき、服装についても、暖かい格好でお越しください。
また、サルが温泉に入るかどうかは、『そのときの天候や状況次第』となります。サル自体、野生のニホンザルですので、営業時間内であっても、必ず公苑にいるとは限りません。あらかじめ、ご承知おきください。
なお、『温泉に入るサル』で有名な地獄谷野猿公苑ではありますが、温泉に入るという行動は、サルたちの生活の一部分にすぎません。春の出産シーズンには、かわいらしい赤ちゃんザル、夏場は元気よく遊ぶ子ザルたちなど、『野生のニホンザルを、おりも柵もない環境で、間近に観察できること』が魅力となっております。冬だけでなく、四季折々のサルたちの自然な姿をじっくりと観察していただきたいです」
(オトナンサー編集部)
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