本当に必要? とんかつに「からし」が付いてくるワケを料理研究家に聞く
飲食店でとんかつを注文すると、皿の脇にからしが付いていることが多いです。ソースで味付けは十分なのに、なぜ、とんかつにからしを付けて食べるのでしょうか。
飲食店でとんかつを注文すると、ソースとは別に、皿の脇にからしが付いていることが多いです。テークアウトの場合でも、袋入りのソースとからしが付いているのが一般的ではないでしょうか。しかし、とんかつにソースを付ければ味付けは十分であり、殺菌作用のために刺し身に付けるわさびのような役割も、火が通っているとんかつには必要ありません。なぜ、とんかつにからしを付けて食べるのでしょうか。料理研究家の長田絢さんに聞きました。
豚肉の臭みを消す名残
Q.なぜ、とんかつにからしを付けて食べるのでしょうか。
長田さん「豚肉の臭みを消したり、とんかつの油っこさを中和したりして、さっぱりとした後味にするためです。昔は臭みのある豚肉が多かったので、おいしく食べる知恵の一つとして、からしを付けていたと考えられます。今の豚肉は、ほとんど臭みはありませんが、からしが付いてくるのは昔の食べ方の名残ではないでしょうか。
また、もともと西洋料理だったカツレツが、日本のとんかつのルーツともされており、カツレツに添えられるマスタードが、日本風にからしに変わったともいわれています」
Q.例えば、ポークソテーなど焼いた豚肉料理では、からしを付けることはほとんどないと思います。とんかつには付くのに、なぜ、からしが付かないのでしょうか。
長田さん「揚げた豚肉料理よりも、焼いた豚肉料理の方が、油っぽさが少ないからです。とはいえ、豚肉の臭みを消すために、ポークソテーでは粒マスタードを付けることが多いですね。
また、ポークソテーなど焼いた豚肉料理は、さまざまな味のソースを作り、それをかけて食べることが一般的です。からしは、少量でも香りや風味、味に大きな変化をもたらすため、作ったソースの味の邪魔をしてしまうことも背景にあるのではないでしょうか」
Q.豚肉ではなく牛肉を使った「牛かつ」では、わさびを付けて食べることが多いです。なぜ、「からし」ではなく、「わさび」なのでしょうか。
長田さん「牛かつは、完全に火を通さずに肉のレア感も楽しむ料理ですが、牛肉よりもからしの方が味が強く、からしを付けると本来の牛かつの味を楽しめないからです。また、牛かつはわさびとしょうゆ、とんかつはからしとソースというように、しょうゆやソースとの組み合わせとして、合う合わないの違いによるところも、あるかもしれません」
Q.チキンカツでは、からしやわさびが付いていないことが多いです。なぜ、チキンカツでは、からしやわさびを付けないのでしょうか。
長田さん「チキンカツは、牛かつやとんかつに比べると脂が少なく、肉自体がさっぱりとしており、薬味を付ける必要性が少ないからです。からしやわさびよりも、味のしっかりとしたソースの方が相性がよいと思います」
Q.あんかけ焼きそばにも、からしが付いてくることがあります。なぜでしょうか。とんかつとの共通点があるのでしょうか。
長田さん「あんかけ焼きそばは、片栗粉であんを作りますが、炒めるときに使った油も、全てあんの中に入ってしまうため、見た目よりも油っこいです。その油っこさを中和する役割と、後味をさっぱりとさせて飽きずに食べられるようにする役割、そして、味にアクセントが付いて楽しめることが、からしが付く理由だと思います」
Q.とんかつやあんかけ焼きそばにからしが、牛かつにわさびが付いていたとき、必ず一緒に食べた方がよいのでしょうか。全く使わなくても、大丈夫でしょうか。
長田さん「もちろんお好みで、どちらでもよいと思います。私は個人的には、牛かつもとんかつも最初は塩だけでいただきます。牛かつは塩とわさび、わさびとしょうゆなど変えていき、とんかつは塩とからし、からし、ソースなどと変えていきます。
こうして食べ方を変えていくことは、お店ではなかなかできないかもしれませんが、私の自宅では、とんかつを食べるときには、わさびやゆずごしょうも準備しています。一言でとんかつと言っても、ヒレカツなのか、ロースカツなのかによっても違いますし、また、酒のおつまみとして食べる場合と、ご飯のおかずとして食べる場合、お弁当に入れる場合でも変わってきます。
いろいろ試しながら、お好みの味を見つけて、楽しむのが一番だと思います」
(オトナンサー編集部)
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