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コロナで減少? 「立ち会い出産」のメリット/デメリットとは 産婦人科医の見解

「立ち会い出産」を希望するかどうかは夫婦によってさまざまですが、実際のところ、夫は立ち会った方がよいのでしょうか。昨今のコロナ禍の影響も含め、産婦人科医の見解を聞きました。

立ち会い出産の現状は?
立ち会い出産の現状は?

「わが子が誕生する瞬間を夫婦そろって迎えたい」「出産時は不安で心細いから、夫にそばにいてほしい」。こうした理由から、夫の「立ち会い出産」を希望する女性は少なくありません。実際に立ち会った男性にとっては「生まれた瞬間は感動して、涙が出た」「大変な妻の姿を見て、育児を頑張ろうと思った」など、父親としての自覚や育児への心持ちに少なからぬ影響があったケースもあるようです。

 一方で、夫・妻問わず、「恥ずかしい」「血が苦手」「仕事が忙しい」などの理由で立ち会い出産を望まない人もいる他、近年はコロナ禍によって、出産の現場そのものにも変化が起こっていることから、「出産を控えているけど、夫に立ち会ってもらうか悩む」「できれば、妻のそばで立ち会いたいけど、コロナ禍では難しいのかな」という声も多く上がっています。

 立ち会い出産が可能な場合、夫は立ち会った方がよいのでしょうか。産婦人科医の尾西芳子さんに、医師としての見解を聞きました。

コロナ禍前から半減

Q.そもそも、立ち会い出産とはどのようなものでしょうか。

尾西さん「立ち会い出産とは“出産の瞬間”に同席することをいいます。出産はまず、陣痛から始まり、いよいよ生まれるとなったときに分娩(ぶんべん)室に移動することが多いのですが、立ち会い出産の場合は付添人が一緒に分娩室へ入室し、出産の瞬間に立ち会います。分娩室に入らず、別室で待機するのは立ち会い出産とは言いません」

Q.立ち会うことができる人はどんな人ですか。また、立ち会いができないケースもあるのでしょうか。

尾西さん「通常は夫やパートナーなど『赤ちゃんの父親』であることが多いですが、妊産婦の両親や兄弟姉妹、男性側の両親、上の子どもや、妊産婦の友人といった人が立ち会うこともあります。

ただ、病院によっては『立ち会いができるのは夫やパートナーのみ』『子どもは入れない』などの決まりがあることもあります。また、発熱など体調不良の場合、妊産婦や生まれたばかりの赤ちゃん、他の患者さんへの影響も考え、立ち会いを断られることもあります。帝王切開の場合は立ち会いができない病院がほとんどですが、手術室で立ち会える病院もあります。

なお、コロナ禍の影響により、2020年4月に日本産科婦人科学会が『感染予防のため、立ち会い分娩を制限する』発表をして以来、ここ1〜2年は立ち会い出産ができない病院がほとんどです。また、分娩時の立ち会いだけではなく、入院中、ママや赤ちゃんに会う『面会』もできないケースも多くみられます。『残念』という声もある一方、赤ちゃんのことを考えると仕方ないと考えるパパやママも多くなっています」

Q.最近の立ち会い出産の割合や増減の傾向について教えてください。

尾西さん「ベネッセコーポレーション(岡山市)が行った『たまひよ妊娠・出産白書2021』調査結果によると、2020年5~10月の間に『配偶者やパートナーが出産に立ち会った』のは36.6%で、それ以前の調査での7割の約半分に急減しています。

また、ベビーカレンダー(東京都渋谷区)が2021年6月、コロナ禍の影響について全国の産院を対象に調査した結果によると、立ち会い出産を『受け入れていない』が44.7%。『制限付きで受け入れている』が51.4%、また、面会は『受け入れていない』が59.2%、『制限付きで受け入れている』が39.5%と、2021年に入ってからも、立ち会い出産や面会に制限を設けている病院が9割以上になることが明らかになっています」

Q.夫が出産に立ち会うことのメリット/デメリットは何でしょうか。

尾西さん「まず、メリットで最も大きいのは『父親としての自覚が生まれる』ことではないでしょうか。女性は妊娠した瞬間に母親としての自覚、赤ちゃんへの愛情が生まれるといわれていますが、男性は実際に生まれるまで、まだ、自分のこととして考えることができないといわれています。生まれる瞬間に立ち会うことで、親としての責任や愛情が、より強く感じられるのではないでしょうか。

その他にも『夫婦の絆が強まった』『出産の大変さが分かった』『妻への愛情が深まった』という声も聞かれます。一方、デメリットとしては、男性は女性よりも『血』を見ることに慣れていないため、気分が悪くなりやすかったり、見たことのない妻の姿に驚いてしまったりすることがあります」

Q.産婦人科医として、夫は妻の出産に立ち会った方がいいと思われますか。それとも、立ち会わなくていいと思われますか。

尾西さん「夫婦ごとに感覚が異なるので一概には言えませんが、出産に立ち会うのはよいことだと思います。一生に数回しかないこと、また、それぞれの子どもについては一度きりのことなので、夫婦・家族の大事な思い出として、しっかり記憶していただくことで家族の絆が強まると思います。

『恥ずかしい』という女性もいらっしゃいますが、男性には頭の方にいて、実際に赤ちゃんが出てくるところは見えないようにしている病院が多いので心配はいりません。心配であれば、事前に医療者にお伝えいただければ配慮もできます。一方、どうしても血が苦手だけど立ち会いたいという男性の場合、なるべく、血を見せないような配慮をすることもあります。こちらも事前に伝えていただければ、可能な限りのことはします。

ただ、どちらかが無理をすると出産がネガティブなものになってしまいます。夫婦でよく話し合って、お互いに納得し、ポジティブに出産を迎えられることが一番だと思うので、決して、お互いに無理強いはしないでくださいね」

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尾西芳子(おにし・よしこ)

産婦人科医(神谷町WGレディースクリニック院長)

2005年神戸大学国際文化学部卒業、山口大学医学部学士編入学。2009年山口大学医学部卒業。東京慈恵会医科大学附属病院研修医、日本赤十字社医療センター産婦人科、済生会中津病院産婦人科などを経て、現在は「どんな小さな不調でも相談に来てほしい」と、女性の全ての悩みに応えられるかかりつけ医として、都内の産婦人科クリニックに勤務。産科・婦人科医の立場から、働く女性や管理職の男性に向けた企業研修を行っているほか、モデル経験があり、美と健康に関する知識も豊富。日本産科婦人科学会会員、日本女性医学学会会員、日本産婦人科乳腺学会会員。オフィシャルブログ(http://ameblo.jp/yoshiko-onishi/)。

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