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懐かしい…声も 学校の「ぎょう虫検査」、なぜなくなった? そもそもどんな検査?

お尻にセロハンのシートをペタッと押し付ける「ぎょう虫検査」。懐かしいと感じる人も多いと思いますが、現在は学校での検査が廃止に。その背景について、小児科医に聞きました。

「ぎょう虫検査」がなくなった背景は?
「ぎょう虫検査」がなくなった背景は?

 子どもの頃、「朝起きてすぐ、お尻にセロハンのシートをペタペタと押し付ける」検査をした記憶のある人も多いことでしょう。「ぎょう虫検査」と呼ばれていたもので、小学校の検診などで実施されていましたが、現在、学校検診での検査は廃止になっています。ネット上では「あのセロハンが懐かしい」「今の小学生はやらないんだ」と時代の変化を感じる人の声や「どうして廃止になったんだろう」「ぎょう虫への感染がゼロになったわけではないよね?」「ぎょう虫に感染したらどうなるの?」といった声もあります。

 ぎょう虫の感染症に関する疑問や、ぎょう虫検査が廃止になった背景について、すずきこどもクリニック(和歌山県新宮市)院長で小児科医の鈴木幹啓さんに聞きました。

肉眼でも見える寄生虫 

Q.そもそも、ぎょう虫とはどんな虫なのですか。

鈴木さん「ぎょう虫とは、髪の毛ほどの太さの、白く細長い形をした1センチ程度の寄生虫です。肛門近くに出てくるとくねくねと動くため、肉眼でも見えます。寄生虫というのは単独で生きるのではなく、人など他の生物の体内で栄養分をもらいながら生活する生物です。なお、ぎょう虫による感染症の正式名称は『腸蟯虫(ぎょうちゅう)感染症』といいます。

ぎょう虫の主な感染経路は『糞口感染(ふんこうかんせん)』と呼ばれる感染様式です。『糞』は便のこと、そして、『口』は文字通り、口の中に入ることを意味します。便の中にあるぎょう虫の卵は、トイレのドアノブに付着していたり、便を拭いたときに汚染された手で物を触ったりすることで付着し、その虫の卵を自分や他人が飲み込んでしまうことで感染します。虫の卵はたいてい、指や汚染された食べ物から口に入ります。

感染症の症状は肛門周囲のかゆみです。女性の場合は膣(ちつ)のかゆみにつながることもあります。ぎょう虫は腸にすみ着きますが、おなかの症状はありません」

Q.ぎょう虫に感染しやすい人はいるのでしょうか。

鈴木さん「感染しやすいのは手洗いが不十分な子ども(幼児~小学生)がほとんどです。男女の性差はなく、持病も関係ありません。遺伝性もありませんが、家族全体が清潔感に欠けていたり、家庭環境が不衛生だったりすると感染リスクは高くなります。また、子どもを世話する職種や患者幼児・児童の家族にも発生します。また、性行為の過程で、感染者の汚染された肛門に接触し、卵が口に入って感染するケースもあります」

Q.ぎょう虫検査とはどのような検査ですか。

鈴木さん「ぎょう虫の成虫は主に人の大腸や直腸で生活しています。このうち、メスが夜間に肛門から体外に出てきて、肛門周囲に卵を産み付けます。その卵があるかどうかで、体内(大腸などの腸管)にぎょう虫が寄生しているかを調べます。このとき、顕微鏡を使って、実際に目で見て判断するため、透明な素材が使われるのです。また、セロハンテープのように粘着性があるものを使用するのは、卵が引っ付くようにするためです。

肛門近くの卵はトイレで排便して拭いたり、洗ったりすると取れてしまいますし、お風呂の後では当然、ぎょう虫の卵が洗い落とされてしまうため、朝起きたら一番に肛門にテープを強く当てます。卵があれば、卵が引っ付きます。そして、肛門周辺に産み落とされた卵が引っ付いた透明のテープを顕微鏡でのぞいて、ぎょう虫の有無を確認するのです」

Q.かつては学校検診などで行われていたぎょう虫検査ですが、なぜ、廃止になったのでしょうか。

鈴木さん「ぎょう虫検査は1958(昭和33)年から、小学校3年生以下の児童に義務づけられ、2015年まで行われていました。昭和30年台はトイレ(くみ取り式)の衛生状態がよくなく、寄生虫感染が30%近くあったのですが衛生環境の改善(水洗トイレ、温水洗浄便座の普及)に伴い、子どもの寄生虫感染率は激減し、検出率は1%以下となりました。そして、2013年には0.2%まで低下したため、2016年からは、スクリーニング検査としてはもう必要がないということになりました」

Q.ぎょう虫検査は一般の病院でも受けることができますか。

鈴木さん「できます。肛門科か小児科を受診しましょう。肛門周囲がかゆい場合や学校などでの流行があれば、医師から検査を勧められることもあります」

Q.ぎょう虫に感染したら、どのような治療を行うのですか。

鈴木さん「基本的には自然治癒しますが、虫の卵は体外で3週間生き延びるため、家庭内に存在する虫の卵を飲み込んで再感染することがあります。治療法としては、飲み薬を処方します。用いる薬は『メベンダゾール』『アルベンダゾール』『パモ酸ピランテル』という薬です。メベンダゾールを1回飲んだ後、2週間後にアルベンダゾール、またはパモ酸ピランテルを服用することで、通常、ぎょう虫感染症は治癒します。ただし、薬で治癒した場合でも再感染することがあるため、家族全員で治療を受けるよう勧める医師もいます」

Q.感染を予防するために、日常生活で気を付けるべきこととは。

鈴木さん「最も効果的な予防方法は手洗いです。具体的には、子どもがトイレを使用した後にしっかりと手を洗わせることでしょう。また、子どもの面倒を見る職業の人や、子どもを持つ家族はおむつを交換した後、せっけんと水道水で手を洗うことが重要です。先述の通り『糞口感染』なので、よく触るおもちゃを頻繁に洗ったり、家庭内に感染者がいる場合は衣類や寝具を洗ったり、虫の卵を除去するため、掃除機をかけたりすることなどが対策法として挙げられるでしょう。感染者は頻繁にシャワーを浴び、体についた虫の卵を洗い流すことも必要です」

(オトナンサー編集部)

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鈴木幹啓(すずき・みきひろ)

医師(小児科)

2001年、自治医科大学卒業。三重県立総合医療センター、国立病院機構三重中央医療センター、国立病院機構三重病院、伊勢赤十字病院、紀南病院を経て、2010年5月、和歌山県新宮市に「すずきこどもクリニック」を開院。2020年10月、医療施設に関する情報などをウェブ上で扱う会社「オンラインドクター.com」を設立。医師と患者をつなぐプラットフォーム「イシャチョク」を運営している。すずきこどもクリニック(https://www.suzukikodomo.jp/)、イシャチョク(https://ishachoku.com/)。

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