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「長時間在席お断り」「勉強お断り」のお店に長居、法的問題は発生する?

「長時間の在席お断り」「勉強お断り」などと掲示するカフェや喫茶店で長居した場合、法的な問題は発生するのでしょうか。

「長居」の法的問題は?
「長居」の法的問題は?

 コロナ禍で2度目の受験シーズンが近づいています。受験勉強の場所として、カフェや喫茶店を選ぶ人もいると思いますが、近年は「長時間の在席はお断りします」「勉強はお断りします」などと掲示するカフェや喫茶店が増えてきました。このような店で長居した場合、法的な問題は発生するのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

契約成立の有無がポイント

Q.カフェや喫茶店での長居が法的に問題となる場合はあるのでしょうか。

牧野さん「民事上は店と客との間に、例えば、『1時間以上長居しない』旨の口頭の契約が成立しているかどうかがポイントとなります。たとえ、店の壁に『1時間以上の在席お断り』と一方的に張り紙や掲示をしていても、客が同意したことにはなりません。契約条件に客の明確な同意がなければ契約は成立せず、張り紙の約束事を守らなくても民事上は契約違反にならないでしょう。

ただし、席待ちの人がいる場合などに、長居している客に店側が何度も退去を促しても、そこからさらに長時間(例えば、数時間)、退去しない場合、『合理的な時間を超えて故意に退去しなかった』として、『不退去罪』(刑法130条、3年以下の懲役または10万円以下の罰金)が成立する可能性があります」

Q.「勉強お断り」という張り紙があった場合は。

牧野さん「長居と同様、一方的に張り紙や掲示をしていても客が同意したことにはなりません。店の入り口に分かりやすく書いてあったとしても『勉強お断りの条件に同意して入店した』とみなすことはできません。違反駐車の例ですが、『罰金1万円』という看板があっても『利用者の明確な合意がなければ契約は成立しない』とされた裁判例があります。

ただし、店側が『勉強お断り』であることを、席に案内する前に客へ口頭で伝えた場合、客は勉強しないで滞在するか、入店を諦めないといけません。客が勉強して居座った場合、店との契約違反になるので、店は契約を解除して、退去を求めることができるでしょう」

Q.店側が「長時間の在席お断り」「勉強お断り」というルールを決める法的根拠はあるのでしょうか。

牧野さん「『契約自由の原則』がありますので、店側がどのような条件で店を客に使用させるかは店側の自由です。ただし、客に同意してもらうことと、条件が明確であることが必要です。『長時間』だけでは条件が明確とはいえないので、例えば、繁華街で客待ちが出る人気店や繁忙期、客が多い時間帯などの場合に『1人1時間までの滞在でお願いします』など、客が納得して、同意できる理由が必要でしょう」

Q.「お断り」の掲示がないカフェや喫茶店の場合、長居している客に対し、店側が追加注文や退店を促すことに問題はありますか。

牧野さん「店側と客との間に明確な契約条件の合意が成立すれば、契約違反を問うことはできます。たとえ、掲示や張り紙がなくても、個別に口頭で同意を得れば、合意が成立するので、店側が追加注文や退店を促すことは可能です。注意しなければならないのが、例えば、『在席2時間まで』と合意していても、民事上は退去を『要求する』ことはできても、『強制する』ことは非常に難しいということです。

追加注文については『1時間ごとにワンオーダー』などと、あらかじめ、契約条件で合意していれば、オーダーしない場合に退去を要求しやすいでしょう。契約条件で合意しているにもかかわらず、合意した時間に加え、合理的な時間を超えて、故意に退去しなかった場合、不退去罪が成立する可能性が高いです」

Q.カフェや喫茶店への長居で裁判などになった例はありますか。

牧野さん「カフェや喫茶店ではなく、ラーメン店の事例ですが、店の対応に腹を立てて、約3時間も居座り続けた男性を兵庫県警明石署が『不退去罪』の容疑で現行犯逮捕した例があります。また、法律違反を問われないとしても、カフェや喫茶店の一般的な利用目的から考えて、数時間を超える非常識な長居は、よほど、店がすいていて、店側のビジネスに支障がない場合を除いて避けるべきでしょう」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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