近隣の「火事」が自宅に延焼、財産消失…火元の住人に賠償請求はできる?
近所の住宅で発生した火事に巻き込まれ、自宅が全焼するなどの被害に遭った場合、火元の住宅の住人に賠償を請求することはできるのでしょうか。弁護士に聞きました。

冬はストーブなどの暖房器具による火災が多く発生するため、新聞やテレビで住宅火災のニュースが報じられる機会が増えます。「普段から気を付けていれば、自宅が火事になる心配はない」と考えがちですが、近所の住宅で発生した火事に巻き込まれて自宅が全焼し、現金や預金通帳、家財道具といった全財産を一度に失うケースもあります。
もし、隣家、あるいは近所で発生した火災の延焼で財産を失った場合、火元の住人に賠償を求めることはできるのでしょうか。また、延焼による火災に備えるには、どのような対策が求められるのでしょうか。グラディアトル法律事務所の若林翔弁護士に聞きました。
日本独特の住宅事情を考慮
Q.隣家、または近所の住宅で発生した火災で自宅が全焼し、財産を失った場合、火元の住人に賠償を求めることはできるのでしょうか。
若林さん「火元の住人に対して、火災によって失われた財産の賠償を求めることは基本的にできません。確かに通常であれば、故意、または過失で他人に何らかの損害を与えた人は民法709条に基づき賠償責任を負いますが、『失火の責任に関する法律』と呼ばれる法令があり、『民法709条の規定は、失火の場合には適用しない』と定められているからです。
日本の家の多くは木造で、家を建てる土地もあまりないため、密集して建てられています。このような住宅事情では一度火災が起きると、瞬く間に隣近所へ延焼してしまうことがあります。その全てについて賠償を請求することは火元の住人にとって、あまりにも酷です。
そこで、先述の『失火の責任に関する法律』で、火元の住人に『重過失』、つまり、人が当然払うべき注意を甚だしく欠いた行為がない限り、損害賠償責任を負わせないこととしました。つまり、火元の住人に重過失がない限り、賠償は請求できないのです」
Q.重過失と見なされる行為には、どのようなものがありますか。
若林さん「例えば、てんぷら油を火にかけたまま台所を離れたことにより、火事になった場合や、寝たばこが火災につながると知っていたにもかかわらず、寝たばこをして火事になった場合などです」
Q.火元の住人に重過失がない場合、巻き込まれた側は家や財産を失ったままになるのでしょうか。
若林さん「先述の通り、重過失がない限り、火元の住民に失った財産の賠償を求めることはできません。そのため、各自の責任で火災に備えることが必要で火災保険加入は必須です。貯蓄が豊富にある人であれば、火事になっても、また新しい家や家具を買いそろえられるでしょうが、多くの人は、すぐに新しい家や家具を買うだけの余力はないでしょう」
Q.火災保険に入っていたら、失った財産分が全額返ってくるのでしょうか。また、自宅や自室が火元の場合と、隣家や隣室の火事に巻き込まれた場合で補償額に違いはあるのでしょうか。
若林さん「返ってくる金額は保険の契約内容によります。火災保険は火災で失った建物や家財について、再度購入する場合にいくらかかるかを予測し、その価格によって、保険の補償範囲を決めていることが多いです。あくまで、補償の範囲内の保険金が支払われるだけで、建物や家財を購入するのにかかった金額と同額になるとは限りません。
自宅や自室が火元の場合と、隣家や隣室の火事に巻き込まれた場合についてですが、多くの場合、補償額に違いはないようです」
Q.火事で財産を失った場合、まずすべきことは。
若林さん「まずすべきことは保険会社への連絡です。加入している保険会社に連絡し、どのような手続きが必要なのか確認しましょう。同様に免許証、クレジットカード、預金通帳などについても、警察やカード会社、銀行に連絡し、再発行の手続きをすることになります。
例えば、免許証の場合、管轄の運転免許試験場や警察署で再交付の申請手続きを行います。即日交付のところもあれば、2、3週間程度かかるところもあるようです。なお、これらの手続きには本人確認書類が必要となるので、住民票などの本人確認書類を準備してから、各手続きを進めていくとよいでしょう」
Q.一方、自宅や自室が火元になって近所の住宅に被害を与えた場合にやるべきことは。
若林さん「先述の『失火の責任に関する法律』により、重過失がない限り損害賠償責任を負わないため、被害の弁償などをする必要はありません。しかし、近所関係を良好に保つためにも、被害に遭った住人におわびをすべきだと思います」
(オトナンサー編集部)
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