子どもが他の子に「手を出す」のはどうして? 親として、どう接すべき?
保育園や幼稚園で、子どもが他の子に手を出してしまうことがあります。原因や対処法を子育てアドバイザーが解説します。
保育園や幼稚園で、子どもが他の子に手を出すことがあります。子どもを迎えに行った際、保育士や先生から、「実は今日、○○くん(ちゃん)が△△くん(ちゃん)をたたいてしまって…」「最近よく手を出すんですよ」などと聞かされて、気まずい思いをした人も多いのではないでしょうか。場合によっては大けがにつながる可能性もありますし、あまりにも手を出すことが多いと親は不安な気持ちになると思います。
そもそも、子どもが他の子に手を出してしまうのは、なぜなのでしょうか。親はどのように子どもと接したらよいのでしょうか。子育てアドバイザーの佐藤めぐみさんに聞きました。
力の行使が有効だと覚えさせない
Q.そもそも、子どもが他の手に出してしまう原因について、教えてください。よく手を出す子どもには、どのような傾向があるのでしょうか。
佐藤さん「人間は自分の取った行動がよい結果をもたらせば、その行動を繰り返すものですが、子どもが他の子に手を出すのもこのケースと似ています。もし、子どもが他の子をたたいたことで、相手の子が言うことを聞いたり、自分の思い通りになったりすれば、『たたくと効く』と覚えます。
また、それまでの学習がそれを後押ししてしまうこともあります。身の回りで『たたくと効く』というシーンに触れている場合がそうです。例えば、ゲームなどを通して、力で打ち勝つことを体感したり、子どもが言うことを聞かないときに親がたたいたりすることがあれば、なおさらです。その子にとって、力で解決することが一番手っ取り早い手段となってしまうのです。
もちろん、家庭内でそのようなことがないのに手が出てしまう子もいます。とっさに手が出るというのは、いわば、真っ先に思いつく原始的な自己防衛ともいえるからです。そのため、小さい子ほど、手が出がちになります」
Q.保育園や幼稚園で子どもが他の子に手を出した場合、親はどのように子どもと接するべきなのでしょうか。
佐藤さん「保育園や幼稚園から、『たたいてしまって…』と報告を受けると、子どもを強く叱りたくなりますが、子どもの話を聞かずに一方的に責めることは避けるべきです。なぜ、たたいてしまったのか、まずは理由を聞きましょう。もしかしたら、一方的にたたいたわけではない可能性もあるからです。
ただ、子どもも自分を守りたいので、言い訳をすることもあるかもしれませんし、子どもから事実通りに話が聞けることはむしろ、少ないかもしれません。それでも、頭ごなしに叱るのは避け、まずは何が起こったのか、状況把握に努めるのが大事です。
逆にどうしても、わが子のかわいさから、『うちの子がそんなことをするはずがない』『そこまで強くたたいたわけではないはず』と擁護する人もいるかもしれません。しかし、現実を受け止めることは大事です。保育士や先生の話などから、状況を公正に捉え、対応を考えることが大切です」
Q.では、子どもが他の子に手を出すのをやめさせるには、どのような対応が求められるのでしょうか。
佐藤さん「親がいる場所で起こったことであれば、その場で注意ができますが、保育園や幼稚園のように親がいない場所で起こることは事後報告となるため、介入が難しくなります。いくら、『もう、○○ちゃんのことをたたかないんだよ』と言ったところで、また保育園や幼稚園に行けば、手が出てしまうこともあるでしょう。
手が出てしまうのは、それがその子にとって、一番手前にある手段だからです。裏を返せば、手を出さずにその場を対処する方法を知らない、もしくは知っていても利用していないといえます。これらのことから、子どもに取ってほしい行動のレパートリーを増やすことがポイントになります。
その際は言葉で『ああしなさい』『こうしなさい』と言うのではなく、お人形ごっこで『譲る』練習をしたり、親子のやりとりで『どうぞ』という言葉を意識的に使ったりするなど、実践で『力で行使しないやりとり』を体験して育んでいきます。そして、できたことに対し、しっかりと褒め言葉を掛けていくことで、たたく以外の手段が強化されやすくなります」
Q.子どもを保育園に通わせている家庭の中には「保育園以外の場所で、子どもが同世代の子と接する機会が少ない」というケースもあります。子どもが他の子に手を出すのをやめさせるには、保育園以外の場所でできるだけ、他の子どもと接する機会を増やすのも有効なのでしょうか。
佐藤さん「もちろん、他の子と接する機会が増えれば、それはその子の社会経験になりますが、数を増やしただけで、たたく行為がなくなるとは考えにくいです。大人に置き換えても言えることですが、私たちが何らかの技術を習得するときは、まず学んで、それから実践に移ることが多いものです。子どもにも、実践の前に『学び』のステップが必要です。
誤解されがちなのが『子どもたちは日々、子ども同士のやりとりの中で、もまれながら学んでいくものだ』という認識です。確かに、子どもはちょっとしたけんかを繰り返しながら成長していくものですが、だからと言って、事前の学びなしに、ただもまれればいいのかというとそうではありません。
各家庭で『どうぞ』『いいよ』といった、友達に取る望ましい行動の知識を子どもにしっかり教えていることが前提で、それらを実践で使うことで、初めて伸びていくのです。家庭で教えずに『子どもたちには、自分たちで解決できる力がある』と考えるのは過信です。『家庭内で学び、保育園や幼稚園で実践』という形で捉えていくのがよいと思います」
きょうだいの有無は関係する?
Q.きょうだいがいる子に比べて、一人っ子の方が子ども同士で接する機会が少ない分、他の子に手を出しやすいとも言われますが事実なのでしょうか。それとも、きょうだいの有無はあまり関係ないのでしょうか。
佐藤さん「基本的には関係ないと思います。
一人っ子でも手を出さない子はたくさんいますし、きょうだいがいる子で、けんか早い子もいます。もしあるとすれば、他の子と触れる機会が少なかったために『どう振る舞っていいか分からない場面で、思わず手を出してしまった』といった展開かと思いますが、それよりはむしろ、『家でも頻繁にけんかをしていて手を出しがちだから、保育園や幼稚園でもつい出てしまった』という方が確率的に多いと思います。
一人っ子であっても、きょうだいがいる子であっても『家庭内での振る舞いが外に出やすい』というのは同じです。保育園や幼稚園でのトラブルは、親がその場にいないためにどう対処していいか悩んでしまいますが、家庭内でのやりとりが外部での振る舞いに結果的に影響してきます。まずは家庭内での振る舞いから改善していくのが望ましいといえます。
きょうだいの有無にかかわらず、家庭内で自由にさせ過ぎている場合も、外で手が出やすくなる一因になることがあります。例えば、家庭内で父親や母親が何でも子どもの言うことを聞くのが『定番』となっている場合、保育園や幼稚園で自分の思い通りにならないとき、子どもは他の子に歩み寄ることができず、つい手が出てしまうのです。
『家庭内のルールが緩過ぎるかもしれない』と感じる場合、そこを見直していくことも改善のポイントになります」
(オトナンサー編集部)
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