オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

当然と思ってるけど…飲食店が客の着席後、「水」を無料で出してくれる理由は?

飲食店に入店して席に着くと、店員が水やお茶を持ってきます。当たり前と考えがちですが、本来は注文されていない水を飲食店側が提供する必要はありません。なぜ、飲食店では客に水を出すのでしょうか。

飲食店が客に水を出す理由は?
飲食店が客に水を出す理由は?

 飲食店の中で、注文した料理をセルフサービスで受け取る店や「水はセルフサービスです」と店内に明示している店の場合、自分で水を取りに行かなければいけませんが、それ以外の飲食店では席に着くと、店員がグラスに入った水やお茶を持ってきます。多くの日本人は「最初に水が出てきて当たり前」と考えがちですが、飲食店にとっては、水は注文されたものではなく、無料で最初に提供する必要性はないはずです。

 なぜ、飲食店では客に水を出すのでしょうか。飲食店コンサルタントの成田良爾さんに聞きました。

日本特有の「おもてなし」

Q.飲食店に入店して席に着くと、ほとんどの場合、店員がグラスに入った水を持ってきます。なぜ、飲食店では客に水を出すのでしょうか。

成田さん「飲食店の店員が、客が席に着いてすぐに水を持ってくるのは日本人の“おもてなし”のサービスから生まれた日本特有のものと言われています。イタリアでは、カフェでコーヒー(エスプレッソ)を注文すると、口の中をきれいにしてから味わってもらうため、一緒に有料の水が出てきたり、アルプス山脈からの水が豊富なオーストリアのカフェでは、無料で水を提供したりしています。

いくつかの説はありますが、最初に無料で水が出されるようになったのは、日本の喫茶店やファミリーレストランがこれらをまねて広がったと言われています」

Q.基本的に水は無料で提供されますが、来店客が多いほど、水道料金などのコストもかかると思います。それでも水を出すことの、飲食店側のメリットは何でしょうか。

成田さん「来店客への『いらっしゃいませ』というあいさつは歓迎の意思を伝えられますが、それに加えて、水を出すことで、ささやかであっても“おもてなし”の意思を示すことができるというメリットがあります。しかし、中には『お客さまが席に着いたら水を持っていく』と単にマニュアル化している飲食店もあります。

また、『テーブルに水が出ていれば、客に対して初期対応したという合図になる』と店員に指導する飲食店のマニュアルも実在するなど“おもてなし”の意味合いを理解している店員は以前より少ないかもしれません」

Q.飲食店で無料で水が出てくるのは日本やオーストリアだけなのでしょうか。世界の多くの国では、このようなサービスは行われていないのでしょうか。

成田さん「日本のように、黙っていても無料で水が出てくる国は非常に少ないです。ほとんどの国は有料の水をオーダーしなければ出てきません。冷たい飲料をあまり好まない国や、水道水がそのままでは飲めない国などもあり、水の提供が無料か有料かはその国の国民性と、水道の衛生事情によるでしょう。

日本は『水道水がそのまま飲める国」なので無料で水を提供できます。最近は各国の浄水能力が向上して、水道水を直接飲める国も増えており、注文すれば、水の無料サービスをする飲食店も増えているようです」

Q.居酒屋の場合、注文前に水が出てこないのが普通です。単純に、客がすぐにアルコール飲料など飲み物を頼むことが前提だからでしょうか。

成田さん「客がすぐに、アルコール飲料など飲み物を頼むことが前提であることも理由の一つです。食事だけではなく、ドリンクも主力メニューにしている居酒屋のような飲食店の場合、無料で水を出さない方が、飲み物を注文してもらう確率が上がり、売り上げも上がります。

また、居酒屋の来店客はアルコール飲料を頼むことを前提にしている客が多いです。そうした客に対して最初に水を出すと、『さあ、飲むぞ!』という客の気分をしらけさせる可能性があることも理由です。そのため、居酒屋では、客に言われるまで、水を出さない店も多いでしょう」

Q.飲食店の中には、グラスの水が少なくなると、店員が気付いて注ぎに来る店があれば、テーブルに置かれているピッチャーで自ら注ぐ必要がある店もあります。この対応の違いに意図はあるのでしょうか。

成田さん「店員が水を注ぎに来る店では、店員は常に客のテーブルやグラスをチェックしているので、より細やかなサービスを提供できますが、都度、水を注ぐ作業なども増えるため人手が必要になり人件費も上がります。一方、テーブルに置かれているピッチャーで自ら注ぐ店では、作業も減り、人件費も抑えられますが、客のテーブルへの意識が薄れてしまい、サービスがおろそかになったり、客が食べ終わった後の食器の片付けが遅れたりします。

『店員が水を注ぐ方が、店員が客席に集中できるため、席の回転率が上がり売り上げも上がる』というデータもあるようですが、どちらを取るかはやはり、経営判断になるでしょう。先述したように“おもてなし”の意味合いを込めて、無料で水が出てくる飲食店は日本特有のものです。日本人の私としては有料のサービスばかりではなく、無料のサービスの“おもてなし”をなくしたくはないですね」

(オトナンサー編集部)

成田良爾(なりた・りょうじ)

飲食店経営コンサルタント

ヴィガーコーポレーション代表取締役。厚生労働省公認レストランサービス技能士(国家資格)、文部科学省後援サービス接遇検定準1級、食生活アドバイザー2級、他。飲食業界25年以上。ミシュランガイド掲載の高級レストランから個人経営の小さな大衆店まで幅広いジャンルの飲食店に携わり、その経験に基づく統計解析および枠にとらわれないアイデアで多くの赤字店を黒字化させてきた実績を持つ。「100年続く店づくり」をモットーに、次世代育成や飲食業の働き方改革などにも力を入れており、食文化普及の他、職業訓練校講師(フードビジネス科)や子育て女性就職支援事業講師なども歴任。現在も多くの飲食店経営者のサポートを手掛ける。飲食店専門のコンサルティング「オフィスヴィガー」HP(http://with-vigor.com/)。

コメント