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ボクサー以外も発症? 「網膜剥離」の原因や症状、治療法は? 予防法も解説

プロボクサーがなりやすいとされる「網膜剥離」ですが、一般の人でも発症するケースは多いのでしょうか。眼科医に聞きました。

山口隆さん(2019年3月、時事)
山口隆さん(2019年3月、時事)

「網膜剥離」と聞くと、プロボクサーがなりやすい病気だとイメージする人も多いと思いますが、人気バンド・サンボマスターが11月11日、メンバーの山口隆さんが診断されたことを公式サイトで発表しました。11月に予定していた福岡などでの公演は見合わせとなりましたが、その後、山口さんは無事に手術を終えて復帰。12月5日の東京公演は予定通り開催されました。

 網膜剥離は一般の人でも発症するケースは多いのでしょうか。また、発症した場合、どのような方法で治療するのでしょうか。かわな眼科(千葉県松戸市)の川名啓介院長に聞きました。

加齢や近視、糖尿病が原因に

Q.そもそも、網膜剥離とはどのような病気なのでしょうか。

川名さん「そもそも、目の中には網膜という神経の膜があり、そこに外からの光がちょうどよく当たることで、光の刺激を脳に伝えて、“見える”という仕組みになっています。網膜剥離とは、その網膜が何らかの原因で剥がれてしまう病気です。剥がれている状態が続くと網膜の血の巡りが悪くなってしまい、網膜が弱るため、その結果として、見る力が失われていきます。

網膜剥離は適切な治療を行わないと失明につながり得る怖い病気です。しかし、発症率は1万人当たり年間1人程度なので、多い病気ではありません」

Q.網膜剥離を発症する原因について教えてください。ネット上では「糖尿病の人や近視の人は網膜剥離になりやすい」という情報が流れていますが、事実なのでしょうか。また、PCやスマホの使い過ぎで網膜剥離になることはあるのでしょうか。

川名さん「網膜剥離は原因によって呼び方が異なり、主に『裂孔(れっこう)原性網膜剥離』とそれ以外の網膜剥離とに分けられます。それ以外の網膜剥離としては『漿(しょう)液性網膜剥離』と『牽(けん)引性網膜剥離)』があります。一般的に連想されるのが裂孔原性網膜剥離です。これは何らかの原因で網膜に穴(医学用語で『孔』)が開くことで網膜が剥がれてしまうものです。外傷や加齢変化により、網膜が機械的に引っ張られてしまい、その結果として、網膜に穴が開くことが関係します。

例えば、プロボクサーは試合などで慢性的に眼球に打撲を受けるので、網膜に穴が開きやすく、裂孔原性網膜剥離になりやすいといえます。眼科医の立場から言うと極力、眼球への直接的な打撲は避けた方が望ましいです。漿液性網膜剥離は、目の中にぶどう膜炎などの炎症が起きることで発症します。牽引性網膜剥離は糖尿病の人が発症しやすい病気です。糖尿病を患い、血糖のコントロールが悪くなると網膜から出血します。

そこからさらに悪化すると、網膜の前にかさぶたのような『増殖膜』というものがつくられる『増殖糖尿病網膜症』を発症します。そのかさぶたが網膜を引っ張ることで、牽引性網膜剥離を引き起こすのです。ここまでくると視力が下がり、重症になると失明することがあります。逆にいうと、かなり重症になるまで糖尿病網膜症は自覚症状が出ないため、糖尿病を患っている人は定期的な眼科受診がとても大切です。

先述のことから、糖尿病を患っている人が網膜剥離になりやすいというのは事実です。また、近視が強い人もそうでない人に比べて、相対的に網膜が薄いので、その分だけ穴が開きやすく、網膜剥離になるリスクが高くなります。なお、パソコンやスマホの使い過ぎで網膜剥離になることはないので安心してください」

Q.糖尿病患者に多い牽引性網膜剥離は自覚症状が出にくいとのことですが、それ以外の網膜剥離の場合、発症すると、目にどのような症状が出るのでしょうか。

川名さん「網膜剥離は原因により、症状や治療方法が異なるため、発症頻度が多い裂孔原性網膜剥離について説明します。裂孔原性網膜剥離の場合、『片目にごみのようなものがたくさん見える』『視界がカーテンがかかったように暗くなる』といった症状を起こします。網膜剥離が物を見る中心まで及ぶと視力がガクンと落ちてしまいます。

若い人で、非常にゆっくりと裂孔原性網膜剥離を起こすことがあります。その場合、なかなか気付きにくいこともあります。しかし、詳細に話を聞くと『そういえば、飛蚊(ひぶん)症(物を見ているとき、黒い虫のようなものが動いて見える状態)が多かったかも』という人がいます」

Q.網膜剥離を発症した場合、どのような方法で治療するのでしょうか。また、治療中に日常生活を送ることは可能なのでしょうか。それとも、入院が必要なのでしょうか。

川名さん「裂孔原性網膜剥離の場合、剥がれてしまった網膜を戻すために『強膜内陥術』、あるいは『硝子体手術』をする必要があります。強膜内陥術は網膜の穴があるところの外側から、冷凍凝固という治療により、軽い炎症を起こさせ、くっつきやすくさせます。さらに目の外側からシリコンスポンジというのを当てて、穴をふさぎ、網膜の下にたまっていた眼内液を抜くというやり方で治療をします。一般的に1~2週間の入院が必要な治療です。

硝子体手術は目の中に直接、機械を入れて、網膜の下にたまった眼内液を抜いて、穴の周りにレーザーで軽い炎症を起こさせてくっつけることで治療を行います。通常は手術終了時に目の中に空気やガス、特殊なオイルなどを入れるため、手術後は目を下に向ける、いわゆる、うつぶせの状態で生活する必要があります。この手術の場合、日帰り、あるいは1~2週間の入院で行います。

最終的には95%のケースにおいて、手術をすることで網膜剥離が治癒すると報告されています。ただし、中には数回手術が必要なこともありますので、網膜剥離は結構重い病気です」

Q.網膜剥離を防ぐには、どのような対策が必要なのでしょうか。日常生活で心掛けるべきことについて、教えてください。

川名さん「裂孔原性網膜剥離の原因の多くは加齢変化と近視です。加齢により、目の中にある硝子体というゼリー状のものが縮んできます。そのとき、網膜を引っ張り過ぎることで穴が開き、眼内液が網膜の下に回り込んで、網膜剥離を引き起こします。60歳前後に多いと報告されています。以前は20~30代でも多いといわれていましたが、最近の統計では異なるようです。

近視というのは、目の奥行き方向の大きさが関係します。近視が強いと、相対的に網膜の厚さも薄くなってしまい、より、網膜剥離を起こしやすくなってしまいます。どちらも避けることができないものです。しかし、一般的には裂孔原性網膜剥離になる前の状態、網膜裂孔といって、網膜に穴が開いただけの状態であれば、早めにレーザー治療を行うことで網膜剥離になる確率をかなり減らすことができます。

網膜裂孔になると、片目にごみのような物がたくさん見えたり、光がちかちか見えたりします。そのようなときには早めの眼科受診をおすすめします。通常、両目で同時に網膜剥離を発症することはあまりないため、片目で急激に飛蚊症が増えた場合、気を付けるとよいでしょう。両目で一時的に見える飛蚊症の場合、あまり心配する必要はありません。

網膜剥離は怖い病気ですが、早めに発見して、しっかり治療することで失明を防ぐことができます。気になる場合、眼科医に早めに相談することをおすすめします」

(オトナンサー編集部)

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川名啓介(かわな・けいすけ)

医師(眼科)

医療法人社団かわな眼科院長・理事長。1999年、筑波大学医学専門学群卒業。筑波大学付属病院、日製日立総合病院、総合病院土浦協同病院勤務を経て、2006年から筑波大学大学院人間総合科学研究科講師となる。2009年、かわな眼科を開設。「快適な目で、人生に潤いを」を目指し、患者さんに分かりやすい医療を提供することを目指している。専門分野は白内障、緑内障。かわな眼科(https://kawanaganka.com/)。

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