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人権侵害批判 北京五輪で米が表明「外交的ボイコット」とは? ボイコットと違う?

北京冬季五輪を巡り、米国が外交使節団を派遣しない「外交的ボイコット」を表明しました。外交的ボイコットとはいわゆる、「ボイコット」とどう違うのでしょうか。日本政府の対応も含め、専門家に聞きました。

北京冬季五輪テスト大会の様子(2021年12月、時事)
北京冬季五輪テスト大会の様子(2021年12月、時事)

 2022年2月に迫った北京冬季五輪を巡り、米国が外交使節団を派遣しない「外交的ボイコット」を表明しました。中国政府による新疆ウイグル自治区などでの人権侵害への対抗措置としており、選手団は派遣するとのことですが「五輪の政治利用では」との見方もあります。英国やオーストラリアなどが追随することを表明、日本政府の対応も注目されます。

 五輪の「ボイコット」と「外交的ボイコット」について、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事の江頭満正さんに聞きました。

最初のボイコットは1956年メルボルン大会

Q.そもそも、五輪で最初にボイコットが行われたのはいつなのでしょうか。

江頭さん「近代五輪史上、最初に国家規模のボイコットがあったのは1956年のメルボルン大会です。五輪に政治を持ち込み、自国の主張を世界に発信するため、プロパガンダに利用したのは中華人民共和国が最初だと考えられます。1949年、国共内戦により、中華民国政府は台湾に撤退しました。国際オリンピック委員会(IOC)は台湾の『中華民国』と大陸の『中華人民共和国』を別の国家として承認し、両国に参加権を与えました。

この決定に納得しなかった中華人民共和国が1956年メルボルン大会をボイコットしたのです。1958年にIOCから脱退、その後、中華人民共和国はIOCに復帰し、中華民国に、オリンピックにおいて国旗と国歌を使わないという条件を出し、中華民国はこの条件をのみ、現在では『China』と『Chinese Taipei』という別組織として五輪に出場しています。

これは中国国内の内戦を五輪に持ち込んでしまった事例ですが、オリンピック憲章(スポーツを通じて、友情、連帯、フェアプレーの精神を培い、相互に理解し合うことにより、世界の人々が手をつなぎ、世界平和を目指す運動)を守るためのボイコットも同じ、1956年メルボルンオリンピックで起きました。ソ連(当時)によるハンガリー侵攻に抗議して、スペイン、オランダ、スイスがボイコットし、ソ連が世界平和を乱していることを世界に向けて発信したのです」

Q.五輪のボイコットといえば、モスクワ五輪を思い出す日本人が多いと思います。

江頭さん「1980年のモスクワ五輪では、西側諸国がソ連のアフガニスタン侵攻に抗議してボイコットを行いました。アメリカ、西ドイツ、日本など50カ国近くがボイコットを決めたのです。政治的な理由で五輪参加が不可能になったアスリートたちは被害者として扱われました。

モスクワ大会で金メダルの最有力候補だった柔道の山下泰裕さんは涙ながらに、アスリートの参加を政府に訴えました。イギリスでは政府の指示に従わず、選手団がモスクワ五輪に参加しましたが、表彰式で国旗や国歌を使うことはありませんでした」

Q.五輪は「平和の祭典」といわれます。

江頭さん「紀元前8世紀から紀元後4世紀にかけて開催されていた古代オリンピックの時代は、あちこちで戦争が行われていました。開催地のアテネに各国選手団が安全に集合できるよう、ヨーロッパ全体での一時的停戦要請が行われました。このオリンピック停戦について、近代オリンピックとして再開する際に『平和の祭典』という解釈をしたと考えられています。

その後、解釈が少し拡大し、『戦争中の国家や人権侵害、ジェノサイド(民族大量虐殺)を行っている国はオリンピック憲章を守っていないため、参加資格がない』と考えられるようになりました。現在、中国・新疆ウイグル自治区では、少数民族の宗教や文化を否定し、中国共産党に従順になるよう再教育が行われ、100万人を超えるイスラム教徒が強制収容所に送られているとされます。

今年1月、アメリカのマイク・ポンペオ国務長官(当時)は、ウイグル民族弾圧は国際法上の犯罪となる『ジェノサイド』であると認定しました。ただ、中国は2022年冬季五輪の開催国ですので、参加資格を剥奪するわけには行きません。そこで、外交的ボイコットとなったようです。

アメリカの目的は少数民族弾圧をやめさせることでしょう。同時に、オリンピック憲章を順守していない国として、中国を国際社会から孤立させる効果も狙っていると思われます。アメリカに続いて、複数国が外交的ボイコットを表明しました。アメリカは友好国に外交的ボイコットをするよう働き掛けています」

Q.モスクワ五輪など過去の五輪の「ボイコット」と今回の「外交的ボイコット」の違いは。

江頭さん「モスクワ五輪のように選手たちが被害者となることを避けるため、選手団は派遣するものの、外交使節団を派遣しないのが『外交的ボイコット』です。2021年4月、アメリカ政府の中国に対する態度が硬化していることを警戒して、アメリカオリンピック・パラリンピック委員会のサラ・ハーシュランドCEO=最高経営責任者は記者会見で『若い選手たちを政治に巻き込むべきではない』と発言しました。

そこで、バイデン大統領はアスリートの機会を奪うことのない外交的ボイコットを選択したと思われます。五輪では、開会式に各国の要人を招く習慣があり、開催地で首脳会談などを行いやすい環境をつくって、参加国間の関係をよくしようとする取り組みもあります。

普段、顔を合わせることのない国の首脳同士が開会式で隣の席に座り、歓談している姿がニュースになることもあり、重要な外交のチャンスとなるのです。しかし、今回の北京大会では少なくとも、バイデン大統領と習近平国家主席が言葉を交わす場面は見られないことになります」

Q.「五輪の政治利用」という批判も出そうです。

江頭さん「ここまで述べてきた事例以外でも、五輪は政治に翻弄(ほんろう)されてきました。アパルトヘイト(人種隔離)問題、東西冷戦、パレスチゲリラによるテロ、メダル競争のためのドーピングなど幾つもの問題がありました。オリンピックが国家間の競争という形式を放棄しない限り、国家間の政治から解放されることはないでしょう。IOCも南北朝鮮の合同チーム要請など、政治に口出しすることもあります」

Q.日本も閣僚派遣の見送りを検討しているようですが、隣国での開催です。東京五輪の直後でもあります。どのような形が望ましいのでしょうか。

江頭さん「日本も外交的なボイコットをすべきだと私は思います。中国がどんな対抗措置を示すか不明ですが、新疆ウイグル自治区で中国が行っていることを包み隠さず、世界に公表し、強制収容やジェノサイドが事実ならば、やめさせなくてはなりません。かつて、南アフリカで行われていたアパルトヘイトや、カンボジアのポル・ポト政権で行われていた『再教育』と称する強制収容と同様の事態を許してはなりません。いずれも歴史が悪行と判定しています。

日本は勤勉で真面目な国民性が世界に評価されています。日本人の正義感は宗教などから学んだものではなく、この国の文化として育まれてきたものです。この問題に目をつぶってはいけないのです。また、気になることは、オミクロン株が中国で未検出とされていることです。新型コロナウイルス流行初期に中国が国家ぐるみで隠蔽(いんぺい)したように、現在の中国国内の感染状況がどこまで公表されているのか疑問です。

北京冬季五輪がアスリートに感染を広げるきっかけにならないことを祈ります」

(オトナンサー編集部)

江頭満正(えとう・みつまさ)

独立行政法人理化学研究所客員研究員、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事

2000年、「クラフトマックス」代表取締役としてプロ野球携帯公式サイト事業を開始し、2002年、7球団と契約。2006年、事業を売却してスポーツ経営学研究者に。2009年から2021年3月まで尚美学園大学准教授。現在は、独立行政法人理化学研究所の客員研究員を務めるほか、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事、音楽フェス主催事業者らが設立した「野外ミュージックフェスコンソーシアム」協力者としても名を連ねている。

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