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頼んでないのに…居酒屋の「お通し」、支払う法的義務はある? トラブルどう防ぐ?

居酒屋で提供される「お通し」。値段を明らかにしないまま、会計に上乗せする店もありますが、こうしたシステムは法的に問題ないのでしょうか。

居酒屋に付きものの「お通し」
居酒屋に付きものの「お通し」

 コロナ禍に伴う飲食店への時短要請が解除されてから、「久しぶりに居酒屋でお酒を楽しんだ」という人もいると思います。居酒屋といえば、お酒を注文すると「お通し」が提供されます。漬物やちょっとした一品料理など、店舗によって、量や内容、価格は異なりますが、値段を明らかにせず、客への確認もしないまま会計に上乗せしている店もあります。

 こうしたお通しのシステムについて、「正直、注文していないものにお金を払いたくない」「食べたら支払わないといけないよね」「有料なら事前に言ってほしい」「断れるの?」など、さまざまな声が上がっています。お通しを巡る法的問題について、芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

「契約の申し込み」は拒否できる

Q.事前の説明なしにお通しが提供された場合、拒否することは可能でしょうか。

牧野さん「お通しは無料で出てくるところもありますが、有料で出てくるケースが多いようです。原則として、法的にはその場で提供を断ることができます。お通しの提供は『頼んでいないのに出されたもの』なので、お店からお客さんに対する『契約の申し込み』といえます。契約の申し込みは拒否することが可能です。

ただし、お通しが有料で提供されることが、ウェブ・電話での予約時の説明や入店時の店員からの説明、メニューへの記載など、事前にお通しの料金説明や表示があれば、『お通しの有料提供に同意して、お店のサービスを利用している』と解釈されるので、代金は支払わなければなりません」

Q.お通し代を支払う必要性について、食べた場合と食べなかった場合で違いはありますか。

牧野さん「事前にお通しの料金説明や表示がない場合でも、出されたお通しを食べてしまうと、契約の申し込みを承諾したことになるので、合理的な市場価格での支払い義務が生じます。一般的には『料金を示さないで出された場合、契約の申し込みとはいえない』と思われがちですが、法的には、価格について明確な合意がなされていなくても、合理的な市場価格での請求が認められることが多いといえます。

また、お通しに手をつけなかったとしても放置していれば、多くの場合で支払い義務が生じる可能性があります。お通しの提供をすぐに断れば、店側も他の客へ提供するなどの対応が取れたかもしれません。黙示に(暗黙に)お通しを食べないで放置しておいたということは『提供の申し込みに承諾した』とみなされる場合が多いでしょう。

最近は、居酒屋さんによっては、すぐに食べたくなるような魅力的なお通しを出してくるお店もありますね。おなかがすいているとすぐに食べたくなってしまいますが、お通しが不要な場合は出されてすぐに断ることが必要です」

Q.入店時やメニューの説明で、お通しの注文が義務づけられている場合、これを拒否することはできますか。

牧野さん「先述したように『お通しは有料で提供』と事前に説明・表示されていれば、同意した上でお店のサービスを利用していると解釈されるので、代金の支払いを拒否することはできません。また、お通しの提供を一種の“入場料”“席料”と考えて、入場料や席料の名目でお客さんから徴収することは法的に問題ないと思われます。

ただし、内装や座席の造り、仲居さんの接客の有無などで、特に高級とはいえない一般の飲食店において、入場料や席料を取るのはあまり一般的ではないでしょう。お客さんには『入場料や席料の分だけ高くつく』という印象を与えるので、お店側にとって、実際には採用しにくい方法かもしれません。なお、高級ホテルや高級料亭で、ホテルスタッフや仲居さんによる手厚い接客が伴う場合、いわゆる『サービス料』を徴収することも告知や表示があれば、過度な料率でない限りは問題ないと思われます」

Q.お通し代のトラブルを防ぐために、店側と客側のそれぞれが気を付けるべきこととは。

牧野さん「お店側はお客さんへの事前の料金説明や表示が必要です。『酔っ払えば、どうせ何も言わないだろう』という姿勢は避けるべきです。アルコールを一滴も飲まず、付き合いで居酒屋に行く冷静な人もいるので、そうした意味でお店側も注意が必要です。お客さん側としては、事前の料金説明や表示がない場合、お通しの値段を確認して、有料で出されたお通しが値段につり合わない内容であれば、すぐに断る勇気も必要です。

商談やデートで飲みに行くとき、そこまでやるとしらけてしまうかもしれませんが、提供されてすぐに断れば、法的な支払い義務は生じません。なお、同様のトラブルとして『ミュージックチャージ(演奏料)』があります。ホテルなどのラウンジで、生演奏や生ボーカルが流れて、『無料で生演奏、これは得をしたな。いいお店だなあ』と思ったのもつかの間、支払時に1人あたり数千円のミュージックチャージを請求されることがあります。

これも、事前の料金説明や表示がない場合、法的に支払いを強制することは難しいといえます。ただし、事前に料金説明や表示がなかったとき、お通しの場合はすぐに受け取りを拒否できますが、演奏の場合はその場を立ち去るしかありません。演奏が始まってすぐにその場を立ち去ることは、ラウンジで飲食中のお客さんにとって現実的ではありませんから、ミュージックチャージの支払い請求はやはり、事前に料金説明や表示が必要といえるでしょう」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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