「岸勇希氏は、はあちゅうさんに『母性』を求めていたのかもしれない」 ハラスメント問題で専門家
作家・ブロガーのはあちゅうさんが電通時代、クリエーターの岸勇希氏からハラスメントを受けていたことを告白。同氏が自らの会社を退社するなど波紋が広がっています。岸氏の言動はどのような心理に起因するものだったのでしょうか。
作家・ブロガーとして活動するはあちゅう(伊藤春香)さんが、大手広告代理店の電通に入社した2009年以降、同時期にクリエーターとして在籍していた岸勇希氏からセクハラやパワハラを受けていたことを証言。岸氏は一部を認め、自社の代表取締役辞任と退社を発表するなど大きな話題となりました。
はあちゅうさんは、岸氏から受けていたハラスメント被害の主な内容として「深夜に突然電話がかかってきて岸氏の自宅に呼び出される」「自宅では黙って正座をさせられる」「性的な関係を要求される(岸氏は否定)」「『胸がない』『色気がない』『顔面が著しく劣っている』などと言われる」「連絡を断つと『広告業界では生きていけなくなるぞ』と脅される」などを挙げる一方、「岸氏も『悪いこと』をしている自覚はあったのではないか」「『俺は愛で言っている』とすごく言ってました」としています。
こうした岸氏の言動について、その背景にはどのような心理が働いているのでしょうか。オフィス レアリーゼ代表で著書に「はじめての自分で治すこころの教科書」(Clover出版)がある心理カウンセラーの神田裕子さんに聞きました。
「女性蔑視」「特権階級」の意識
Q.岸氏のはあちゅうさんに対する言動を通して、岸氏(当時)のどのような人間性や心理状態が読み取れますか。
神田さん「『お前みたいな利用価値のない人間には~くらいしかやれることはない』『からだも使えないわけ?』『お前の顔面は著しく劣っているが、俺に気に入られているだけで幸運だと思え』『底辺の人間の知り合いは底辺だな』などの言葉から女性蔑視、特権階級意識が見受けられますが、これは反対に彼のもろさを表しています。他者をおとしめることで自分を優位に立たせようとする言動は、人に言えない劣等感を抱えている可能性、そして、現在の地位からいつ転落するかわからない不安定さの裏返しと言えるでしょう。岸氏は『俺は愛でやっている』という言葉によって自分を正当化しています。八つ当たりは、甘えられる相手や気持ちを許した相手にしかできない行為なので、岸氏ははあちゅうさんに『甘えていた』と言えるかもしれません」
Q.岸氏にとってはなぜ、はあちゅうさんだったのでしょうか。
神田さん「先述のように、『指導』『教育』を名目とした岸氏の行為が『八つ当たり』であるならば、岸氏は、はあちゅうさんに甘えていた、もしくは本心を表現しても許される相手として見ていたことになります。もしかすると、はあちゅうさんに『母性』に似た何かを求めていたのかもしれませんね。信頼というには度を越した、屈折した思いですが、はあちゅうさんは『特別な存在』だったのではないでしょうか。このようなケースでは、被害者側に『すきがあった』『思わせぶりな態度を取ったのでは』とよく言われますが、そうではなく『尊敬する先輩に気に入られたい』という、はあちゅうさんの思いを岸氏が利用する結果になったのだと思います」
Q.岸氏のようなタイプの人間は身近にいるものですか。
神田さん「産業カウンセラーや企業研修をしているとハラスメントの相談をよく受けます。1999年に改正男女雇用機会均等法が成立すると同時に、環境や意識は以前よりもだいぶ改善されたとは思いますが、職場によってはいまだに残っています。たとえば男性優位の人事配置、形だけの女性雇用推進、中小企業のトップによる公私混同などがある、意識の低い会社に見られると思います。接し方は加害者のタイプによって2通りに分かれます。一つはハラスメント研修で学ぶことによって改善する『知識・常識不足タイプ』の加害者で、このタイプは昔ながらの『男らしさ/女らしさ』で判断するので、自分のやっていることが悪いことだと、そもそも知らないのです。知識さえ習得すれば、自分の立場を悪くしたくないので変化が見られます。もう一つは『パーソナリティー障害』で、すべてにおいて『自分が正しい』という強い価値観を持っているので、言動を決して訂正しません。このタイプについては一人で対処せず、すぐに誰かに相談しましょう」
(オトナンサー編集部)
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